「もうサッカー辞めたい」
ある日突然、子どもからそう言われて戸惑ったことはありませんか。送迎も応援も続けてきたからこそ、すぐには受け止められないものです。この記事では、子どもが「辞めたい」と口にする時に何が起きているのか、親が最初にかける言葉、そして結論を出す前に確かめておきたい選択肢を整理しました。読み終えた頃には、辞めさせるか続けさせるかで迷う前にやることがある、と気づいていただけるはずです。
「辞めたい」は結論ではなく、入口の言葉です
子どもが口にする「辞めたい」には、いくつもの事情が重なっています。
試合に出られなくて悔しい。強く言われて怖かった。チームメイトとうまくいかない。練習がきつい。前より下手になった気がする。
こうした事情がある時、子どもはそれを一つずつ言葉にすることができません。まとめて「辞めたい」という一言になります。つまりこの言葉は、話し合いの結論ではなく入口です。
日本サッカー協会が保護者向けに公開しているハンドブック「めざせ ベストサポーター」では、指導者、審判、大会の形式、そして保護者といった育成年代に関わる大人が力を合わせ、子どもたちにとって何が一番良いのかという観点で判断していくことの大切さが示されています。ここで前提になっているのは、子どもの状態は本人だけで決まるものではなく、まわりの大人がつくる環境と切り離せないという見方です。
「辞めたい」を子ども個人の意志の強さの問題として受け取ってしまうと、この視点が抜け落ちてしまいます。
また、笹川スポーツ財団は4歳から21歳までを対象に「子ども・青少年のスポーツライフ・データ」という調査を隔年で実施し、子どものスポーツ環境の変化を記録し続けています。同財団は、少子化によって地域のスポーツクラブの登録者数が減少し、子どもが身近にスポーツを続けるしくみを維持すること自体が課題になっていると指摘しています。
子どもが続けにくくなる背景には、本人のやる気だけでなく、こうした環境側の事情も重なっているということです。
理由を聞く前に、気持ちを聞く
多くの場合、親が最初に口にするのはこの質問です。
「なんで辞めたいの?」
けれど子どもは、たいていうまく答えられません。理由を説明するには、自分の中で起きていることを整理し、順番に並べ、言葉にする必要があります。それは大人でも簡単なことではありません。
先に聞いてほしいのは、理由ではなく気持ちの方です。
- 「最近、どんな時が一番しんどい?」
- 「練習に行く前って、どんな気持ちになる?」
- 「サッカーの中で、まだ楽しいと思える時間はある?」
理由を問う質問は、子どもを説明する側に立たせます。気持ちを問う質問には、その必要がありません。感じたことをそのまま出せます。そして話しているうちに、子ども自身も気づいていなかった理由にたどり着くことがあります。
辞めたいという言葉の下にどんな気持ちが隠れているのかは、子どもがサッカーを辞めたいと言う理由でもう少し詳しく整理しています。
結論を急ぐと、見えなくなるもの
気持ちを聞く前に結論へ向かってしまうと、行き止まりになりやすい対応が3つあります。
「せっかくここまで続けてきたのに」
親としては自然に出てくる言葉です。ただ子どもには、自分の気持ちよりも続けてきた事実の方が大事にされている、と伝わることがあります。
「そんなことで辞めるなんて」
辞めたいと言うまでに、子どもの中では時間が経っています。その時間を短く見積もると、本当に困っている原因が見えないまま終わってしまいます。
その日のうちに答えを出す
「わかった、辞めよう」も「絶対に辞めちゃダメ」も、どちらも早すぎます。子ども自身がまだ整理できていない段階で、大人が先に決めてしまうことになります。
私が今も忘れられない、一人の子のこと
20年ほど前、5年生から担当したチームでのことです。
そのチームに、友達とのコミュニケーションがうまくいかず、周囲から少し距離を置かれている子がいました。彼はいつも私に話しかけてきました。練習の前も、終わった後も。
最初のうちは、一緒にボールを蹴りました。話も聞きました。ここが彼にとって安心できる場所になればいいと思っていました。
けれど時間が経つにつれて、私は少しずつ疲れを感じるようになりました。以前のように、何でも受け止めることができなくなっていきました。彼への関わり方が、私の側で変わってしまったのです。
その後、彼はチームを辞めました。
今になって思うのは、彼が辞めたかったのはサッカーではなかっただろう、ということです。自分の居場所が少しずつ狭くなっていく感覚から、離れたかったのだと思います。そしてその居場所を狭くしたのは、他でもない私でした。
同じ頃、卒団を迎えた学年では、17名ほどいたメンバーのうち3人が途中で辞めていきました。卒団時に中学校でサッカーを続けたのは、半分ほどです。
当時の私は、そこに強い疑問を持ちました。なぜ彼らは続けなかったのだろう、と。自分自身は中学生の頃、サッカー以外の選択肢を考えたことがありませんでした。だからこそ、自分がサッカーを楽しいものにできなかったのではないか、と考えました。
この経験が、今の私の出発点になっています。子どもが何かを辞めたくなる時、原因は本人の中だけにあるとは限らない。まわりの環境の中にも、必ず何かがある。そう考えるようになりました。
「辞めたい」は、サッカーへの言葉とは限らない
現場に立っていると、子どもが辞めたくなる背景にあるものは、サッカーそのものではないことが多いと感じます。
人間関係。評価への不安。自信が揺らいでいる時期。がんばっているのに伸びを感じられない停滞期。
サッカーが嫌いになったわけではなく、サッカーの周りにあるものがしんどくなっている。そういうケースが少なくありません。
だとすれば、変えるべきなのは子どもの気持ちではなく、その周りにある環境の方かもしれません。実際、環境が少し変わっただけで、また前を向けるようになる子もいます。
もちろん、休むことや辞めることが正しい選択になる場合もあります。ただそれは、原因が見えた後に選ぶことです。一度休むという選択肢を持っておくだけでも、話し合いの余裕は変わってきます。
今日から試せる3つのこと
1. 最初の一言を「受け止める言葉」にする
「そう思うくらい、しんどかったんだね」。この一言を先に置くだけで、次の会話が続きやすくなります。
2. 結論を出す日を、その日にしない
「今週いっぱい考えてみよう」と時間を区切ります。答えを保留にするのではなく、考える期間をつくるという意味です。
3. 選択肢を3つ以上、並べて見せる
続ける、しばらく休む、環境を変える。二択にすると子どもは追い詰められますが、三択以上あると自分で考え始めます。
「続けてほしい」は、誰の願いでしょうか
ここで一度、立ち止まって考えてみてください。
子どもに続けてほしいと思う気持ちの中に、自分自身が積み重ねてきた時間や、まわりの目や、期待は含まれていないでしょうか。
それがあること自体は、悪いことではありません。ただ、それが混ざっていると気づいているかどうかで、子どもへの言葉は変わります。
答えを出す必要はありません。ただ、一度だけ考えてみてほしいのです。
よくある質問
Q. 「辞めたい」と言われてから、どのくらい様子を見ればいいでしょうか。
決まった期間はありません。ただ、次の試合や大会が終わるまで、といった区切りがあると子どもも考えやすくなります。逆に「いつまでも考えていいよ」は、宙ぶらりんの時間が長引くことがあります。
Q. 一度辞めた後に、また戻ってくることはできますか。
チームによって扱いは異なりますので、辞める前にその点だけ確認しておくと安心です。戻れる可能性があると分かっているだけで、辞める決断の重さは変わります。
Q. 兄弟がサッカーを続けている場合、どう伝えればいいでしょうか。
続ける側と辞める側を比べる言い方にならないようにするのが大切です。それぞれ別の話として扱い、辞める子の決断を家庭の中で小さく扱わないことを意識してみてください。
まとめ
子どもの「辞めたい」は、話し合いの結論ではなく入口の言葉です。理由を問う前に気持ちを聞き、結論を出す日を先に延ばすだけで、見えてくるものが変わります。
この順番を知っておくと、突然「辞めたい」と言われた時に、親が先に慌てずに済みます。慌てないでいられることが、子どもにとっての安心になります。
私自身は、一人の子がチームを去った経験から、原因は子どもの中だけにあるのではないと考えるようになりました。環境の側にできることは、思っているより多いと感じています。
今日はまず、「そう思うくらいしんどかったんだね」の一言だけ用意しておいてください。それだけで十分です。
辞めるか続けるかより大切なのは、子どもが自分で考えて選んだという経験です。その経験は、サッカーを続けても辞めても、必ず残ります。
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