「うちの子、自主練を全くしないんです。」
そう相談されることがあります。サッカー以外のことばかりに時間を使い、ボールに触れる時間がほとんどない。周りの子が練習している話を聞くたび、焦る気持ちも出てきます。
この記事では、ジュニア期の成長について公的機関が示している考え方を整理したうえで、私が25年以上の指導の中で出会った、自主練をほとんどしなかった3人の子どもの話をお伝えします。
読み終えたとき、「やらせるかどうか」ではなく「今この子は何に夢中なのか」という視点で、お子さんを見られるようになるはずです。
「自主練をしない」を心配する前に整理したいこと
まず、よく言われる考え方と、公的にどう示されているかを並べて見てみます。
一般的には、こう心配されています
自主練をしない子について、次のような見方をよく耳にします。
技術の習得に時間がかかるのではないか。自主練をしている子との差が、目に見える形で開いていくのではないか。本気で取り組んでいないと、コーチに思われるのではないか。
どれも、親として自然に浮かぶ心配だと思います。ただ、私が現場で見てきた子どもたちは、少し違う姿を見せてくれました。
小学生時代の差が、そのまま続くとは限らない
日本スポーツ振興センターが紹介している研究では、シニア年代で活躍している選手の多くが、ジュニア時代には突出した成績を残していなかったことが示されています。
同センターは、早い段階での選抜や過度な専門化に偏らず、楽しさや多様な経験を大切にしながら長く続けられる環境を整えることの重要性を指摘しています。
つまり、今の時点で練習量が少ないことは、その子の将来を決める材料にはならないということです。
国も「一つの競技に絞らない環境」を進めている
スポーツ庁は、ジュニア期の子どもたちが多様なスポーツに親しめる環境づくりを進めています。地域で複数の種目に触れられる機会を増やす、いわゆるマルチスポーツの取り組みです。
背景にあるのは、一つの競技だけを早くから続けることが、必ずしも競技力の向上につながるとは限らないという考え方です。
サッカー以外のことに時間を使うのは、遠回りではありません。むしろ、国が意識して増やそうとしている時間でもあります。
練習量を増やせば解決する、とも限らない
スポーツ庁と文化庁がまとめた指針では、過度の練習がスポーツ障害やケガのリスクを高め、必ずしも体力や運動能力の向上につながるとは限らないことが指摘されています。
「やらないから伸びない」と考えて量を足していくと、この逆側のリスクに近づいていきます。
私が見ているのは「量」ではなく「気持ちのノリ」
ここからは、私自身が現場で置いている見方です。
チーム練習やサッカースクールのように大人がメニューを組む時間は、小学生年代なら1日1時間程度で十分だと考えています。
一方で自主練は、時間で区切る必要はないと思っています。集中できている状態、頭が回っている状態でやっているなら、いくらやってもいい。逆に、やる気が出ない日は遊べばいい。
大事なのは、やりすぎかどうかではなく、やらせすぎになっていないかです。
サッカー以外に夢中だった3人の子ども
ここからは、実際に見てきた子どもたちの話です。
将棋、ポケモン、お菓子作り、風力発電
ある子は、サッカーを全くと言っていいほど練習しませんでした。
その代わり、将棋にハマったり、ポケモンにハマったり、お菓子を作ったり、肉まんを作ったり、風力発電を作ったり。サッカーとは関係のないことに、次々と夢中になっていました。ご家族も心配されていました。
でもその子は、合宿でリーダーをしてくれたり、しおりを作ってみんなをまとめてくれたりしました。
本とゲームに没頭していた子
別の子は、いつも本を読んでばかり。家から出ず、ゲームばかりしていました。
それでも、友達に宿題を教えて大人気でした。夏休みの自由研究では、ヒーローについて研究し、注目を集めていました。
サッカーの自主練は、ゼロでした。
兄との野球、家族との時間を選んだ子
もう一人は、「サッカーが好きじゃないから」と言って、兄と野球をしたり、野球観戦に行ったり。休みの日は家族で出かけたり、バーベキューに行ったり。
サッカーに費やす時間は、ほとんどありませんでした。
3人とも、6年生で中心選手になった
この3人は、自主練をしていませんでした。それでも、6年生になる頃には、それぞれチームの中心選手になっていました。
将棋やお菓子作りで培った集中力や工夫する力が、合宿でのリーダーシップにつながっていたのかもしれません。本を読む中で育った言葉にする力が、友達への説明上手さにつながっていたのかもしれません。家族との時間を大切にしてきた経験が、仲間との関わり方に活きていたのかもしれません。
はっきりした因果関係は分かりません。ただ、サッカーから離れた時間が無駄になっていたわけではない、とは感じています。
「やらない子」と「やらされていない子」は違う
3人を見ていて気づいたことがあります。
この子たちは、サッカーを「やらされていない」だけでした。何もしていなかったわけではありません。将棋にも、本にも、家族との時間にも、全力で向かっていました。
自主練をしないことを心配するとき、私たちは「サッカーをしていない時間」を空白として見てしまいがちです。でも、その時間にも何かが育っています。
私自身、若い頃は「もっとサッカーをやらせるべきだ」と考えていました。でも、こうした子どもたちが6年生で急に伸びていく姿を何度も見るうちに、その考えを手放しました。
夢中になる対象は、その子が選ぶものです。そして、対象が変わっても、夢中になれる力そのものは残ります。
今日から試せる3つのこと
考え方だけでは動きにくいので、具体的な行動を3つ挙げます。
1. 「サッカーしないの?」を1週間だけ封印してみる
その言葉を止めると、家の中の空気が少し変わります。まずは1週間、言わずに過ごしてみてください。
2. 今夢中になっていることを、1つ詳しく聞いてみる
ゲームでも本でも構いません。「それ、どこが面白いの?」と聞いて、5分だけ聞き役に回ってみる。自分の好きなものを否定されなかった経験が、子どもの土台になります。
3. サッカーの話は、子どもから出たときだけにする
親から振らない。子どもが話し出したら、そこで初めて乗る。この順番を守るだけで、サッカーが「親のもの」から「自分のもの」に戻っていきます。
よくある質問
Q. 中学以降を考えると、今やらせないと間に合わない気がします。
A. 焦る気持ちは自然だと思います。ただ、日本スポーツ振興センターが紹介している研究でも、シニアで活躍した選手の多くはジュニア期に突出していませんでした。今の差が、そのまま続くとは限りません。
Q. サッカーをやめたいと言われたわけではないのに、練習しません。
A. 続けたい気持ちと、練習したい気持ちは別のものです。「やめたい」と言っていないなら、まだ本人の中にサッカーは残っています。
Q. 他の習い事に時間を取られています。減らすべきでしょうか。
A. スポーツ庁も、ジュニア期に多様な活動に触れる環境を進めています。減らす前に、本人がどれを楽しんでいるかを聞いてみるのが先だと思います。
まとめ
自主練をしない子が、サッカーで活躍できないわけではありません。日本スポーツ振興センターが紹介している研究では、シニアで活躍した選手の多くがジュニア期には突出していなかったことが示されています。
将棋やポケモンに夢中だった子、本とゲームに没頭していた子、家族との時間を選んだ子。3人とも自主練はゼロでしたが、6年生で中心選手になりました。
彼らを見ていて気づいたのは、「やらない子」と「やらされていない子」は違うということでした。サッカーをしていない時間にも、何かが確かに育っています。
まずは1週間、「サッカーしないの?」を言わずに過ごしてみてください。代わりに、今夢中になっていることを聞いてみる。それだけで、見える景色が変わることがあります。
我が子がサッカーに向かわないのを見るのは、不安なものだと思います。それでも、その子が何かに夢中になれているなら、まだ何も心配はいらないのかもしれません。
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